♪会いたくて、会いたくて、会いたくて、あなたにとても。
会いたくて、会いたくて、心が叫ぶ…
有線放送から、流れてきたメロディを心の中で、呟きながら、お皿を洗っていた。
ほんの1週間前、出会い系サイトで出会った彼と別れた。
初めて、付き合った人だった。
会いたい気持ちは、今も変わっていない。
でも、もう、彼が私に会いに、ここに来てくれることはないのだ。
歌の中に自分を投影しながら、お皿を洗っていると、冷たい水が気持ちよく、そんな自分に酔っていた。
「あのぉ…」小さな声が、私の「酔い」を覚ました。
「はい?なんでしょうか?」
バイト先の厨房は、カウンターキッチンになっていて、身をかがめると、お客様の顔が見える。
そこには、昔の私のメル友に似てる高校生らしい男の子が、覗いていた。
彼は、いつもやってくる常連さんだった。
同じ部活仲間なのだろう、十人ほどでやってくる。
「はい?なんでしょう?」
「あの…先輩が、あなたのこと気になるみたいで…その…今度、デートしてもらえませんか?」
「え?」
振り返った彼の視線の先には、メガネをかけた男性が、座っていて、少し伏し目がちにお辞儀をした。
先ほどの男子学生は、席に戻っていた。
それに変わって、メガネの男性が、カウンターのところにやってきた。
男子学生たちは、大騒ぎしていた。
どうやら、ゲームに負けた彼が、先輩の告白のきっかけを作るという「罰ゲーム」だったようだ。
メガネをかけた男性は、自分の名刺を取り出すと、自分の携帯番号を裏に書いた。
彼は、卒業した高校のテニス部に、時々指導に行っていること、設計士であること、
ずっと、私のことが気になっていたのだということを、早口で、一気にしゃべった。
神待ちサイトなんてまだ知らないであろう男子学生の大騒ぎは、まだ続いていた。
目の前の男性は、私の反応を伺っている。
♪会いたくて…さっきの歌が、また耳に入ってきた。
そっか…私には、もう、会う人いないんだなぁ…と、ぼんやり考えながら、
目の前にいる人のメガネの中の瞳が、優しそうだなとぼんやり思っていた。